資本金増加による税務への影響
増資とは、会社の財産的基礎であると同時に、会社債権者にとって唯一の担保財産である資本金を増加させることをいい、資金調達のための有力な手段です。
法人には法人税・消費税・法人住民税・事業税など様々な税金が課されますが、中には資本金の大小で税金の計算方法が決まるものや納税義務の有無の判定を行うものが存在します。増資したことでタックスポジションが変わり想定していなかった税負担が発生するケースもありますので、今回は資本金額が影響を及ぼす税金計算についてまとめてみます。
1. 資本金が1億円以下・超で取扱いが変わる事項
資本金が1億円以下か超かで一番影響の大きいものは法人事業税の外形標準課税制度です。資本金が1億円以下の法人は所得割額に対してのみ課税されることとなり、税額は税務上の利益に比例する形になります。一方、資本金が1億円超の法人は外形標準課税の納税義務者となり、付加価値額・資本金等の額・所得金額の3つを課税標準として、これらの金額にそれぞれ税金が課されることとなります。付加価値額と資本金等の額は利益とは関係のないものですので、極端に言えば赤字の会社であっても税金が多額に生じる場合もあります。
また、法人税法では資本金が1億円以下の法人(注1)を中小企業者と定義しており、中小企業者について様々な課税上の特典を付与しています。資本金が1億円を超える場合には、特典が適用できないため予め認識しておく必要があります。
下記の表に取扱いの違いを簡単に纏めました。
(注1)資本金が1億円以下の法人のうち、以下のいずれかに該当するものは除かれます。
①発行済株式等の1/2以上が同一の大規模法人(資本金が1億円超の法人)の所有に属している法人
②発行済株式等の2/3以上が複数の大規模法人の所有に属している法人
項目 |
資本金の 判定時期 |
取扱い |
(法人事業税) 外形標準課税
(地方税法72条) |
事業年度末 |
【1億円以下】 外形標準課税は適用されず、所得割額に対し課税される。 (人格のない社団等、投資法人、特定目的会社などの一定の法人は、資本金などの額に関わらず外形標準課税は適用されない。) |
【1億円超】 外形標準課税が適用され、課税標準を付加価値割、資本割、所得割の3つの区分に応じて、それぞれ定める税率で課税される。 |
(法人税) 税率
(法人税法66条) |
事業年度末 |
【1億円以下】 年800万円以下の所得については22%。 年800万を超える場合には、その超える部分については30%。 |
【1億円超】 30% |
(法人税) 交際費
(租税特別措置法 61条の4) |
事業年度末 |
【1億円以下】 年400万円に達するまでの金額については、その金額の90%を損金算入。年400万円を超える部分の金額は損金不算入。 (青色申告法人であるか否かは問わない。) |
【1億円超】 全額損金不算入 |
(法人税) 留保金課税
(法人税法67条) |
事業年度末 |
【1億円以下】 適用除外 |
【1億円超】 特定同族会社に該当する場合には適用あり。 (適用がある場合には、通常の法人税のほか、一定の内部留保金額に対して法人税が課税される。) |
(法人税) 貸倒引当金
(租税特別措置法 57条の10) |
事業年度末 |
【1億円以下】 繰入限度額の計算上、貸倒実績率か法定割合かを選択できる。 (青色申告法人であるか否かは問わない。) |
【1億円超】 貸倒実績率によって限度額を計算する。 |
(法人税) 減価償却
(租税特別措置法 42条の6) |
資産取得時点 |
【1億円以下】 取得価額30万円未満の資産につき、損金経理を要件に全額損金算入できる。 ただし、青色申告法人であることが要件。 年300万円までを限度。 |
【1億円超】 上記規定の適用なし。 (取得価額が10万円未満の資産については損金経理を要件に損金算入できる。) |
(法人税) 特別償却・控除
(租税特別措置法 67条の5) |
資産取得時点 |
【1億円以下】 新品の特定機械等を取得した場合には、通常の減価償却に加え特別償却(資本金が3,000万円以下の場合には特別控除も適用可)が認められる。ただし、青色申告法人であることが要件。 (特別償却・特別控除については租税特別措置法において規定されており、資産の種類や取得金額等によって特別償却・特別控除の適用要件が異なる。) |
【1億円超】 通常の減価償却費のみが損金算入可能となる。 |
(法人税) 欠損金の繰戻し還付
(租税特別措置法 66条の13) |
継続して |
【1億円以下】 欠損金が生じた場合に、前期以前の納付法人税の還付請求をすることができる。 継続して青色申告法人であること、確定申告期限内に申告書と還付請求書を提出していることが要件。 (設立等の事業年度の翌事業年度から当該事業年度開始の日以後5年を経過する日の属する事業年度に限る。) |
【1億円超】 適用なし。 |
(法人税) 試験研究費の特別控除
(租税特別措置法 42条の4) |
事業年度末 |
【1億円以下】 特別控除額の計算につき特例制度あり。 青色申告法人であることが要件。 (原則的な方法と選択可能) |
【1億円超】 上記特例制度なし。 |
(法人税) 教育訓練費の特別控除
(租税特別措置法 42条の12) |
事業年度末 |
【1億円以下】 特別控除額の計算につき特例制度あり。 青色申告法人であることが要件。 (原則的な方法と選択可能) |
【1億円超】 上記特例制度なし。 |
(国税調査) |
− |
資本金が1億円以上になると、原則として、「調査課管轄法人」として国税局の税務調査を受ける。1億円未満であれば原則、税務署。 |
2. 資本金が1,000万円未満・以上で取扱いが変わる事項(消費税の納税義務)
設立したばかりの法人の消費税の納税義務の有無は事業年度開始の日時点での資本金額が1,000万円以上か否かで判定されます。消費税の納税義務は原則として2期前の消費税法上の課税売上高によって判定し、設立したばかりで2期前が存在しない法人のみ資本金で判定していくことになります。従って、設立して間もない法人についてのみ注意しておく必要があります。
3. 法人住民税均等割
資本金の額と従業員数に応じて税額が決まります。法人が存在する限り、赤字であっても必ず発生する税金となります。
上記の他にも資本金が税額計算に影響を与えるものは数多く存在しますが、今回は、比較的影響の大きい項目についてはおさえてありますので参考にしてください。
(2008.9.1)
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