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国際財務報告基準
『IFRSが賃貸(管理)業に与える影響』
※2012.1.1時点の基準、公開草案等に基づいています。 自見金融大臣の発言によりひとまず導入が延期されたIFRS。 しかし、連結財務諸表に適用されることはほぼ既定路線であり、一部上場企業を始めとする大手企業では、IFRSの導入準備は着実に進んでいます。 大手上場企業グループの賃貸(管理)会社においては、自社で行う賃貸(管理)業がグループ全体のIFRSによる影響を把握する必要がある一方で、IFRS自体の基準設定が進行中なことに加え、賃貸(管理)業務にテーマを絞ったIFRSの説明が少なく、なかなかその全容が把握しづらいのではないでしょうか。 今回は、IFRSのうち、賃貸(管理)業務に影響のある項目だけを抜き出し、賃貸(管理)業の経理及び実務にどのような影響があるのかご説明させて頂きます。
基準の概要 インカムゲイン及びキャピタルゲインを目的として保有する不動産は投資不動産となり、本基準の対象となる。また、オペレーティング・リースの貸し手及びファイナンス・リースの借り手も適用対象となる。 投資不動産は、「公正価値モデル」か「取得原価モデル」を選択し、測定する。 公正価値モデルを採用した場合、決算の都度公正価値を測定し、評価損益をP/Lに取り組む。取得原価モデルを採用した場合は、時価の開示は注記により行い(現行の日本の『賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準』と同様)、減価償却費と減損損失がP/Lに計上され、これらを控除した残高がB/Sに計上されることになる。 これらモデルの選択適用は、全ての投資不動産について同じモデルを適用する必要があるが、IFRSを遡及適用するか、みなし原価を採用するかは、資産ごとに個別に選択できる。 公正価値で評価している場合、リースの会計基準は適用されない。 【コメント】 取得原価モデルは現行の日本の基準とほぼ同様ですが、どちらのモデルを選択するかでP/Lへのインパクトは大きく異なります。実務作業としては、どちらのモデルによっても定期的に鑑定評価を取る必要がありますので、この点においては大差はないと考えられます。
リースに係る会計基準の動向 現在適用されているのはIAS17号『リース』である。 2010年8月に公開草案「リース」が公表され、その中ではファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分を廃止し、借り手は「使用権モデル」、貸し手は「履行義務アプローチ」及び「認識中止アプローチ」という2つのアプローチを使い分けることが提案されていた。 しかし、借り手に単一モデルを適用する一方で貸し手には複合モデルを適用することの合理性に欠けるため、2011年7月に単一モデルを採用することが仮決定された(「受取債権および残存資産アプローチ」)。 さらに現在、この「受取債権および残存資産アプローチ」を改善する方向で議論が進んでおり、「受取債権および残存資産アプローチ」の考え方を維持しつつ、残存資産を公正価値で評価する「繰越利益」アプローチを採用することが仮決定されています。 つまり、公開草案が出され、基準化しないうちに再公開草案が出され、さらにそれに修正を加えたアプローチが検討されている状況です。 「リース」の再公開草案は2012年上半期に公表され、2012年中に最終基準が公表される予定である。 IAS第17号 基本的には日本基準と同様に、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、前者は売買処理、後者は賃貸借処理される。但し、日本のような数値基準(現在価値基準:90%、経済的耐用年数基準:75%)が無いほか、短期(1年)、少額(300万円)の例外的な取り扱い規定も無い。 ファイナンス・リースとは、資産の所有に伴うリスクと経済価値を実質的にすべて移転するリースをいい、オペレーティング・リースとは、ファイナンス・リース以外のリースをいう。 リーシング費用の会計処理 製造業者又は販売業者である貸し手が関与しないファイナンス・リースの場合の仲介手数料、広告料、弁護士報酬等は、リース期間にわたり、認識される収益を減額する。 製造業者又は販売業者である貸し手が関与する場合は、リース開始時点で一括して費用として認識される。 【コメント】 デベロッパー及び販社は、グループ内の別の法人だと思いますので、ファイナンス・リースを行う賃貸会社においては、仲手、広告料等のイニシャルコストがリース期間に按分されることになると考えられます。今の日本には無い実務ですが、通常の賃貸契約がファイナンス・リースに該当するケースは少ないと思いますので、実務への大きな影響は無いと考えられます。また、IFRSが連結を対象とすることを考えますと、連結ベースでは、当該リーシングが、製造業者又は販売業者が関与するリーシングとなりますので、一括して費用処理になると考えられます。
フリーレントの会計処理 フリーレント、移転費用の負担、造作費用の負担等、借り手に与えられたインセンティブについては、リース料総額からの控除項目として、リース期間にわたり定額法で認識する。 【コメント】 移転費用を負担する実務自体が稀だと思いますが、会計処理においても、移転費用や造作費用をフリーレントと同様にリース期間にわたって処理することは無いと思います。この点は、IFRSが適用されると一定の影響があると考えられます。 フリーレントに付いては、現行の日本の会計処理においても、解約不能な場合又はこれに準ずる契約の場合には、契約期間で按分することが多いので、IFRSが適用されても実務的な影響は少ないと考えられます。但し、IFRSでは1ヶ月分からのフリーレントの繰り延べ処理が求められますので、この点は影響があると考えられます。
預り保証金の会計処理 預り保証金は当初認識時に公正価値で測定し、リース期間にわたり償却原価で測定(定額法で費用化)する。 【コメント】 日本では敷金は取得原価で計上しますので、一定の影響がでると考えられます。どこまで厳密な測定が求められるかは不明ですが、オフィスなど、長期・多額の契約では公正価値による測定が求められるのではないかと思います。 家賃保証 家賃保証がデリバティブの定義を満たす場合は、当該賃料保証を金融資産として会計処理し、原則として公正価値で評価・計上する。同様に、サブリースを行うことで家賃保証と同様の経済的効果を得る場合、売買後の継続的関与の程度も含め、同様の検討が必要となる。 【コメント】 家賃保証はデリバティブに該当すると考えられますが、レジデンシャルなど、期間も短く金額も僅少な取引についてどこまで厳密な処理が求められるかは不明です。
総額表示、純額表示 収益は、自己の計算により受領する経済的便益からなり、第三者のために回収した金額は収益とはならない。本人当事者のために回収した金額は収益ではなく、手数料の額が収益となる。 本人としての行為を行っているか、代理人としての行為を行っているかの判断は状況により異なるが、例えばサブリースを行っている場合で、オペレーション上のリスク(空室リスク、賃料改定交渉、リーシング活動等)を実質的に負担しているのであれば総額で、これら重要なリスクにさらされていない場合には、手数料のみを収益として表示する。 【コメント】 現行の実務も同様の処理が多いと思いますので、特に大きな影響は無いと考えます。
基本的には、現行の日本の『資産除去債務に関する会計基準』と同様であるが、賃借人の側で、資産除去債務を計上する代わりに、敷金を定額で償却するという例外規定はIFRSには存在しない。 【コメント】 サブリースを行い賃貸(管理)会社が敷金を差し入れている場合に、敷金の例外規定の部分に影響があると考えられます。 (2012.2.29) |
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