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ジェトロ『中国GDP世界第2位時代の日本企業の対中ビジネス戦略』報告書について〜その2〜

 2011年3月にジェトロから出された『中国GDP世界第2位時代の日本企業の対中ビジネス戦略』報告書は、大手企業を中心とした中国進出日系企業に対するヒアリング等を通じて、中国における日系企業の現状、将来展望、今後の戦略等についてまとめています。
 このレポートは主として大手企業を対象としたものですが、新聞などの報道からでは掴みづらい中国の現状や今後の動きを把握する意味からは、今後中国への進出を検討している中小企業や、現代のビジネスマンの基礎知識としても、非常に有効な報告書です。

 全文は200ページに及ぶため、要点を、私見を交えてまとめてみたいと思います。

【日本企業の今後の対中ビジネス戦略】
1.中国の中長期展望
2.12・5規画の概要
3.中国の戦略的新興産業の概要
4.競争力強化に向けた課題・問題点
5.リスクマネジメントの強化
6.戦略的ビジネスアライアンスの展開
7.チャイナ・プラス・ワン戦略とFTA戦略
8.専門化インタビューから中国ビジネス戦略を探る

1.中国の中長期展望
経済成長“率”は徐々に低下
   11・5規画における目標GDP成長率は7.5%であったのに対し、12・5規画における目標成長率は7.0%となっています。また、経済規模自体が大きくなった点、環境・エネルギー問題、一人っ子政策による労働人口の減少などから、2016年頃から、中国の経済成長率は低下すると考えられています。
 しかし、成長の質と効率の向上のために敢えて7%に抑えている状態であり、実際には7.0%を上回る公算が大きいとされています。
 また、成長率はあくまで計算上の“率”の問題であり、世界第2位の経済大国が依然として高水準で成長し続けることは確実であり、仮に7%で成長を続ければ、10年後にはGDPは2倍になります。
経済成長のカギ
今後の中国経済を牽引する要因は、個人消費、第3次産業、内陸部開発であるとされています。
(1)個人消費
 GDPに占める個人消費の率が、先進国が6〜7割程度であるのに対し、中国は35.1%となっています。政府は、内需拡大を目標として国民の消費力強化を打ち出しています。
(2)第3次産業
 GDPに占める産業別内訳が、第1次産業が10.3%、第2次産業が46.3%、第3次産業が43.4%となっています。先進国のGDPに占める第3次産業の割合が6〜7割程度であることから、政府はサービス産業の育成に重点的に取り組む方針を示しています。
(3)内陸部開発
 内陸部開発については、地域間格差の是正のため、2009年までの10年間で2兆2000億元(約27.5兆円)を投じて120のプロジェクトを実施しています。そして、この方針はさらに10年間延長し、より一層のインフラ投資を行うこととなっています。
新政権、12・5規画等
  中長期的な中国経済を見る上での注目点は以下の通りです。
  (1)国家元首
 次期国家元首と目される習近平氏の下で、どのような政策運営がなされるか。
(2)12・5規画
 中国は社会・経済政策を5ヵ年規画で運営しており、2011年から始まった12・5規画が今後の中国経済を見る上で非常に重要となります。
(3)イノベーション
 人件費の上昇や人民元レートの切り上げが続く中、従来のような労働集約型産業が生き残ることは難しく、資本集約型産業あるいは現代サービス業といった、産業構造の高度化が必要となります。そして、そのためには中国企業の自主創新(イノベーション)能力が求められ、政府は、GDPに占める研究開発比率を2.5%以上にする、対外技術依存度を30%以下にする、といった目標を掲げています。
(4)食糧問題
 工業化、人口増加、水資源不足などを踏まえ、長期的に食料自給率を95%以上にする目標を掲げています。但し、現在の中国の食料自給率はほぼ100%であり、短期的な問題は生じていません。

2.12・5規画の概要
 12・5規画では、GDP成長率を年平均7.0%とし、戦略的新興産業の育成、サービス業の発展、更なる省エネ・環境保護に注力するとともに、国民所得をGDP成長率と同じペースで増加させること、教育・医療などの社会保障制度を整備することなどを示しています。
 12・5規画の主な目標は以下の通りです。
年平均GDP成長率を7.0%とするなど、経済発展の水準を新たな段階に引き上げる。
産業構造の高度化など、経済発展モデルの転換と経済構造調整を加速する。
教育水準の向上、自主イノベーションの推進など、社会事業の発展に注力する。
省エネと環境保護を推進する。


経済成長と同じペースで国民所得を増加させる、基本医療保障制度を全国に広げるなど、国民生活を全面的に改善する。
改革開放を全面的に深化させる。
断固として政府腐敗を取り締まる。

3.戦略的新興産業の概要
 中国国務院(日本の内閣に相当)は、7産業を戦略的新興産業と位置付け、GDPに占める割合を2010年の5%から2015年までに8%、2020年までに15%に引き上げることを目標として掲げています。
省エネ・環境保護産業


次世代情報産業技術(情報ネットワークインフラ建設、次世代モバイル通信、ネットワークの融合、IC、高性能ソフトウェアなど)
バイオ産業
ハイエンド設備製造業(旅客機、衛生、海洋資源設備など)
新エネルギー産業(次世代原子力、太陽光発電、風力発電、スマートグリッド)
新素材産業(レアアース、ハイテク構造材、高性能繊維など)

4.新エネルギー自動車産業競争力強化に向けた課題・問題点
基本戦略と第12次五ヵ年規画の研究・分析
   12・5規画の全体の方向性のほか、特に自社のビジネスに影響する事項を踏まえてビジネス展開することが求められます。
市場に適合した製品の研究開発
 中国は地域、年代によって所得水準や消費嗜好が異なり、特に中国経済の牽引役が沿海部から内陸部に移ってきたことにより、いわゆる「ボリュームゾーン」の中所得者層が消費の主役になっています。
 そのような中、市場のスピード・変化に対応するためには、従来のように研究開発機関を日本に置くのでは市場の変化に間に合わなく、中国に研究開発拠点を置く動きが強まっています。
 また、そのような動きに応じて、日本の研究開発拠点との棲み分けの他、中国人の嗜好を一番理解する現地技術者の採用、育成が求められるようになってきています。
流通チャネルの開拓・確保
 流通チャネルとして、B to Bの場合は、ミドルエンド商品の販売や内陸部への展開に当たっては代理店チャネルの活用が求められ、B to Cの場合には、従来の百貨店や直営店を使った販売から、コンビニ、ネット、テレビ通販など、多様化が進んでいます。
 地域展開として、重点地域を設定して展開する他、ショーウィンドウ的な効果があるため上海は外せないといった状況があります。
 その他、物流インフラとして、ネット販売で商品の届かない場所は無い程発達しているものの、都市間物流、チルド輸送、大型商品などの特殊輸送は日本に比べて弱いです。
きめ細かなマーケティング
  (1)セグメンテーション
 国土が日本の25倍の中国においては、31の省・管轄市・自治区を異なる国と捉えて地域ごとのマーケティングを立てる必要があります。また、価格面において、従来は高付加価値商品を富裕層に売り込むのが基本戦略でしたが、ボリュームゾーンの出現に伴い、当初からボリュームゾーン向けの商品を開発し、購買力の上昇に伴い付加価値を高めていく戦略も求められます。
 その他、中国の50代以上は消費に対してネガティブな意識があり、消費の主体を担うのは30〜40代となっています。
(2)製品戦略
 競争が熾烈な中国市場では、製品の機能のみならず、デザイン、ブランドといった製品の形態やアフターサービスといった付随機能にまで差別化のポイントが進んでいます。高品質、高性能な製品を得意とし、価格で勝負するのが難しい日本企業にとって、付加価値の説明、提案、ブランド力の向上が重要となります。
(3)価格戦略
 中国の消費者は日用品の購入については価格に非常に敏感であり、安いものを作るのが不得手な日本企業にとっては大きな課題となります。
 他方で、食の安全など商品のよさが消費者に理解されている場合にはカスタマー・バリュー(顧客が適正と認める価格)は高くなります。
 価格が高い日本製品を販売するに当たっては、価格以上の価値を提示することが重要となります。
(4)プロモーション戦略
 業界のキーパーソンから評価されていることを広告、パブリシティ、口コミで伝えてもらう他、影響力の大きいブロガーに商品やサービスを体験してもらい、ブログで取り上げてもらうという手法もあります。
 メディアを使った広告は、広告費が日本並みに高い割に媒体やチャネル数が多く、効果が限定的という声もあります。
コスト競争力の強化
  旺盛な内需を狙い中国市場への外資企業の参入が相次いでいますが、中国地場企業の台頭も目覚しく、中国での内販をめぐる競争は一層激化しています。また、これまで享受していた所得税の「二免三減」政策といった外資優遇策が次第に撤廃される中で、今後外資系企業は地場企業との対等な立場で競争していくことになり、製品の品質は高いものの、「高コスト体質」と言われる日系企業にとっては、コスト競争力への対応の強化は喫緊の課題といえます。
  (1)生産・販売力の強化
 量産効果によるコスト引き下げ。特に、平均10%以上の経済成長を続ける中国では、成長率以上の生産・販売の拡大を目指していくことが求められます。
(2)現地調達率の引き上げ
 コスト競争力の強化や為替リスクへの対応から現地調達を強化する方向にあります。技術指導も含めた現地サプライヤーの育成に力を入れたり、サプライヤーの売り手市場となっている状況に対応して地場企業との良好な関係を構築したり、また大手メーカーの中国進出に伴い、中小企業も中国に進出する、といった動きが加速しています。
(3)自動化・省力化
 人件費の上昇や2015年をピークとする労働人口の減少を踏まえ、生産段階における自動化・省力化が進んでいます。
(4)内陸部へのシフト
 沿海部での規制強化や人件費の高騰、所得水準の上昇に伴う有望市場の増加、競合企業が少ないといった理由から、大手企業を中心に内陸部への進出を検討している企業が増えています。
 しかし一方で、物流費を含めると却って高くなる、賃金コストも月に500元〜600元程度しか差がない、といった理由から、実際に生産拠点を内陸部に移した事例は少ないです。
(5)間接費の共有・集約による間接コストの削減
 中小企業による異業種連合など、生産に直結しない間接費を共有・集約することで、コスト競争力の強化に繋げることが可能です。
人材の育成・現地化
  中国がマーケットとしての重要性が高まる中で、中国市場の特性や嗜好を最も掴んでいる中国人をいかに適切に育成・活用し、販路開拓を進めていくかが重要となります。
  (1)中国拠点に勤務する中国人
 スタッフクラスについて、必ずしも金銭的な待遇だけで企業への帰属を判断しているのではなく、ビジョンの共有、成長が実感できるといったことが重要になります。
 マネジメントクラスについて、中国でのビジネス展開においては、折衝力、人脈がものをいう場合が多いといった理由から、中国拠点のマネージを中国人に任せる企業が増えています。
 但し、マネジメントレベルの人材は限られており、外からスカウトすると給料が高額になる傾向があります。
(2)中国拠点の日本人駐在員
 駐在員の選定にあたっては、言語能力や経験もさることながらコミュニケーションやマネジメントの能力が高く、現地で皆と共に汗をかき、現地中国人社員の信頼を得られるような人材を送り込むことが必要です。
 駐在期間についても、韓国企業が片道切符のつもりで地元に根を張った形で駐在させる一方、日本企業はわずか3年程度の駐在期間で、現地の事情が分かってきた頃に帰任となるといった問題点も指摘されています。
(3)日本本社に勤務する中国人
 日本に留学した中国人を本社で採用・教育し、将来的に中国に赴任させる企業も増加傾向にあります。しかし、日本本社採用という理由で、高額な給与を支給することが、中国現地法人の中国人社員との間に摩擦を引き起こす可能性があるため、慎重な対応が求められます。
(4)日本本社に勤務する日本人
 欧米企業は中国現地法人まで物理的に距離が離れているため、「良くも悪くも」権限委譲と現地化を推進せざるを得ない状況にあります。他方日本企業は、中国までの距離が相対的に近く、現地への出張が比較的容易であるため、権限委譲と現地化の遅れにつながっている面があります。

5.リスクマネジメントの強化
基本戦略とチャイナリスクの体系的整理
  (1)かつては「米国がくしゃみをすると日本が風邪を引く」と形容されましたが、それが今では中国になりつつあります。中国の位置づけが急速に高まる中で、リスクマネジメントの強化が一層重要になります。
 中国に進出した企業は、政治体制の違いなどから、中国が相対的にリスクが高いことは十分に認識した上で進出していますが、そうした中でも、2003年のSARS、2005年の反日デモのほか、特に2010年は、沿海部のストライキや賃上げの動き、省エネ目標達成を目的とした不合理な電力供給制限、尖閣諸島での漁船衝突事件、またそれを契機とした通関遅延やレアアース輸出の停止といった問題が発生し、「チャイナリスク」を再考する年となりました。
(2)チャイナリスクの体系的な把握
 中国リスクは各社均等ではなく、中国を理解していない企業にとってリスクが高く、中国を熟知している企業にとっては他社との差別化となりうるという前向きな意見もあります。
 チャイナリスクには、政治、社会、経済といったカントリーリスク、投資環境、生産、販売、財務・金融・為替、雇用・労働といったオペレーションリスク、対日抗議行動、治安悪化、新興感染症、従業員の安全管理、情報セキュリティといったセキュリティリスクがあります。
情報収集・分析力の強化
  中国の政治・経済動向をいち早く捉え、それをマクロ・ミクロの視点でそれぞれ分析し対策を打っていくことがリスクマネジメントにおいては重要になります。
  (1)報道による情報収集
 日中、欧米等の世界各国のメディアの他、二次情報の報道だけではなく、現地で一次情報を収集・分析することも重要です。
(2)現地政府からの情報収集
 中央政府と各地方政府で解釈や運用が異なる場合が往々にしてあり、日頃から地元地方政府と良好な関係を築き、最新の情報・動向を収集し、対策を打つことが必要となります。
(3)企業間での情報収集
 進出日系企業同士の会合などに参加し、横の繋がりを持つことも必要です。
(4)社内における情報収集
(5)外部の専門家等による情報収集
 法務・労務問題についてコンサルティング会社や弁護士事務所、財務・税務問題については会計事務所などに相談するほか、ジェトロなどの公的機関や取引銀行などからも情報収集をするなど、幅広く様々なルートから情報を得られる体制を構築することが必要です。
内外におけるリレーションの強化
   社内のリレーションについて、良好な労使関係作りに関しては、日頃のコミュニケーションが重要と考える企業が多く、不満を貯めさせないようにすることが重要となります。転職していく中国人従業員が、建前では給与が原因といっても、本音では総経理との関係がうまくいかない、将来の発展性が感じられない、といった場合も多いです。
 社外におけるリレーションについては、地域社会、地元政府、公安などと交流を図り、最新情報や制度改正の動きを察知するための要素を収集することが重要です。
法制度問題
   中国進出企業の中で知的財産権の保護や法制度の未整備、運用に関して問題があると考える企業の割合は多く、その割合はインド進出企業と比較しても高くなっています。
 しかし、中国の法制度自体は目覚しい速度で進み、現在は日本と同等かそれ以上と指摘する弁護士も多いです。
 中国の法制度に関する問題はいくつかあり、①運用面が地域ごと、行政担当者ごとに解釈が異なる、②輸出増値税還付率の引き下げや加工貿易輸出禁止類の拡大などといった急激な変更、③変更内容の確認に苦慮する、④従業員年次有給休暇条例のように法令が過去に遡って適用となる、といった点が挙げられます。
 対策としては、@中国の法体系を理解し、それぞれに気を配ること。中国の法令は、全国人民代会(日本の国会に相当)とその常務委員会が制定する法律、国務院(日本の内閣に相当)が制定する行政法規(条例)、国務院を構成する部や委員会(日本の省庁に相当)が制定する部門規則(部門規章)、地方の人民代表代会や地方政府が定める地方性法規や地方政府規則があります。②中国の法令制定、変更のスピードは早いため、現地政府関係者、業界団体、関係企業担当者、商工会、日本人組織の会合等を通じた情報収集を行うこと。③本社との情報共有体制、④弁護士、会計事務所、コンサル会社等の専門家の活用、といったことが挙げられます。
知的財産権の保護
   中国進出企業の一番の問題点として、知的財産権の侵害が挙げられます。国別に見ても、模倣被害社率は、中国が1位で62.0%と、2位の台湾24.2%、3位の韓国22.2%を大きく引き離します。
 また、模倣問題と同じく知的財産に絡む問題として、合弁事業や技術供与等のアライアンスを通じた技術流出問題も挙げられます。
 中国政府も知的財産権法令を整備して模倣品の取り締まりに力を入れていますが、手口の巧妙化により、被害は減る方向にはありません。これは、日系企業に限らず、売れる商品は中国企業も被害にあっていますので、中国に進出するには、このリスクと向き合っていく必要があると言えます。
 採りうる対策としては、①早期の権利取得。展示会に出展した際に模倣業者に商標登録されてしまった例もあります。②模倣品の流通を止めること。具体的には、必要な証拠を提出することで、商標及び不正競争問題については工商行政管理局、原産地虚偽表示については質量技術監督局、権利侵害品の海外輸出を止めるには海関(税関)に申し立てます。
労務問題
  労務問題は、中国で事業運営する際のビジネスリスクの中でも特に留意しなければならない問題であると言えます。
  (1)労働争議
 労働仲裁期間に申し立てる仲裁費用の無料化で労働者からの申立てが容易になったことも手伝い、08年に申立てが受理された労働争議件数は69万件と前年の2倍に急増しました。
 予防策としては、要となる中国人幹部の存在や日頃のコミュニケーションが挙げられます。
(2)採用難
 中国では、就職難が社会問題となる一方で、需給のミスマッチから、ワーカー、技術者、中間管理職と、あらゆる層で採用難の状況があります。
(3)離転職
 離転職を抑えるためには、中国人幹部の採用、社員のモチベーションを向上させる職場環境及び評価制度、コミュニケーションが図られ雰囲気の良い職場環境といったことが挙げられます。
(4)人件費上昇
 中国に進出している企業の8割が人件費の上昇を経営上の最大の課題と捉えています。12・5規画によれば法定最低賃金を毎年13%超引き上げる目標が掲げられており、今後も人件費の上昇が見込まれます。
(5)現地人材の育成
 急激な経済発展と産業の高度化に伴い求められる能力は高度化していますが、一方で大学教育がマス教育へと変わり、大卒者の平均レベルが低下しています。そのため、社内の人材育成が追いつかず、マネジメントクラスや専門職など、市場に少ない人材は売り手市場になっています。
環境・省エネ規制の強化
  環境・省エネ規制の強化に伴い、この分野でリードする日本企業にはビジネスチャンスがある一方で、これらの規制は以下のようなリスクを引き起こします。
  (1)コスト増加
 例えば江蘇省では、08年からメッキ加工後の工業排水は河川放流基準で定められた業者を通じて排水しなければならず、処理費用が年々上昇しています。
(2)事業計画変更
 これまで多くの日系企業は省エネに取り組んでいるものの、省エネ努力を行っていない企業と同じように電力供給制限の対象となり、生産計画の変更を余儀なくされている会社も少なくありません。
(3)法に違反した場合の処罰・賠償・信用喪失  環境・省エネ規制に対する取締りが厳しくなっている他、規則違反時の処分の厳格化や罰金の引き上げが行われています。
(4)技術開示
 環境・省エネ規制は、分野によっては米国や欧州より厳しく、それに対応する先端技術やノウハウを開示しないと、中国のスピードについていけないという状況があります。
消費者対応
   消費者の権利意識の高まりに伴い、製造物責任(PL)や消費者権利保護の問題が拡大しています。毎年3月15日は、国際消費者権益保護デーとして、マスコミを挙げてキャンペーンが張られます。特に日系企業は、品質への高い期待や反日感情もあり、槍玉に上がりやすいです。
 製品品質法や消費者権益保護法に加え、2010年7月には権利侵害責任法が施行され、賠償責任が重くなっています。
 対策としては、制度に関する情報の収集、不良品を作らない、模倣品対策、マスコミとの関係構築、良き企業市民としてのイメージ醸成、代理店のコントロール等が挙げられます。
コンプライアンス問題
   不正競争防止法において、「事業者は、財産又はその他の手段で賄賂行為を行うことにより商品を販売又は購入してはならない。帳簿に記載することなくひそかに相手側単位または個人にリベートを贈ることは、賄賂行為として処分する。」とされ、たとえ相手が公務員ではなくても処罰される可能性があります。
セキュリティリスクへの対応
  (1)対日抗議運動(反日デモ、不買運動など)
 歴史問題や領土問題などによって誘発されるため、企業がコントロールすることが難しいです。しかし一方で、リスクが顕在化したときに影響を最小限に抑える対策として、内外のリレーションの強化、社会貢献活動などを通じた地域社会からの信頼醸成などが挙げられます。
(2)新興感染症および災害の発生
 SARSや新型インフルエンザなど。
(3)駐在員の安全管理
 生活環境やビジネス習慣の違いによるストレスなどにより、身体的な健康問題のほか、うつ病など精神疾患も増加しています。
(4)情報セキュリティ問題(不正アクセス、情報漏えいなど)
(5)治安悪化
 中国は比較的治安の良い国といわれており、駐在員が誘拐されたり殺害されるといったケースは少ないです。
マスコミ対策
   中国のマスコミにおけるリスクとして、報道されると他の新聞やネットに転載が広がることが挙げられます。
 対策として、日頃からマスコミとの関係を保ち、具体的には、イベントへの招待、年末や春節などに懇親会を開く他、記者会見に参加した記者に対して原稿料や車代を渡すといった対応も場合によっては必要になります。
撤退戦略
   チャイナリスクが表面化した2010年においても、中国からの縮小もしくは第3国への撤退・移転を検討した企業は数%に過ぎません。
 中国への進出手続きは比較的容易ですが、撤退には時間を要します。税務当局による国税の未納が無いかの確認などがあり、清算までに数ヶ月から、場合によっては1年以上かかるケースもあります。
日本企業のリスクマネジメント事例
  (1)キリンホールディングス
 日本経団連企業行動憲章に基づいて、賄賂と認識される土産物の提供も禁じている。
(2)資生堂
 公安とも協力して年間200〜300件の工場、販売倉庫、店舗を摘発し、徹底的に対策を取っている。
(3)日本精工
 現地化の観点から、生産・販売・技術で延べ27拠点、現地採用人材は5,000名を超えている。
 法制度の変更、金融・為替問題、労働争議など、想定外のリスクが発生した場合には、基本的には現地で対応し、本部に報告することになっている。

6.戦略的ビジネスアライアンスの展開
 提携先としては、日本企業によるコンソーシアム、中国企業、NIES企業が挙げられます。
  (1)日本企業によるコンソーシアム
 コンソーシアムの事例として、大手自動車メーカーの中国進出並びに現地調達の増加に伴い、中小の自動車部品メーカー12社が共同出資により江蘇省に進出、自社開発ソフトウェアを事業展開する企業4社が日本製ソフトウェアを中国最大の通信電話会社である中国電信のブランドで四川省で販売、上海市において省エネ製品を持つ日本の電気機器メーカーや省エネコンサルティング会社10社により発足、といった例があります。
(2)中国企業とのビジネスアライアンス
 中国企業とのアライアンスは大きく分けて生産面でのアライアンスと販売面でのアライアンスがあり、生産面でのアライアンスのメリットは、何よりコストの削減が挙げられます。日系企業はハイエンド製品に強く、中国企業はミドルエンド以下の製品に強いため、双方の強みと弱みを補完し合えれば理想的であると言えます。販売面でのメリットは、現地企業が有する流通ルートや販売ネットワーク、現地の慣習を理解したうえでの運営ノウハウの活用といったことが挙げられます。
 アライアンスの成否の一番のポイントは、優良なパートナーと組めるかどうかに尽きます。信頼できるパートナーと組むためには、相手企業が納期や支払期限、コンプライアンス、ガバナンス面で信頼のできる企業か否かを見極め、提携前に信頼関係を築くことが求められます。

7.チャイナ・プラス・ワン戦略とFTA戦略
生産拠点分散型のチャイナ・プラス・ワン戦略
   中国一極集中によるリスクはあるものの、他のアジア・オセアニア地域の国は、法律やインフラの未整備、治安問題を初めとした投資環境のリスクは明らかに中国に劣後しており、生産拠点のリスク分散を目的として事業展開を図っている企業は少ないです。
市場開拓型のチャイナ・プラス・ワン戦略
   現在各社が模索しているのは、中国で新興国向けのビジネスモデルを確立し、それを他の新興国に転用・応用する、あるいは中国で量産した低価格製品を他の新興国に輸出するという戦略です。
中国でのFTA活用は限定的
   中国のFTAの進展に伴い、ASEANから半製品を輸入して中国で組み立てるといった企業も一部ではあるものの、FTAを活用していない企業が大半です。

8.専門化インタビューから中国ビジネス戦略を探る
大地法律事務所
  (1)進出日系企業が現在直面することが多い問題は何か?
 売掛金回収問題、商業賄賂や自己取引、高級管理職の会社資産の横領問題、知的財産権問題、模倣品問題、労務問題、合弁パートナーとの問題、中国の商習慣の理解不足、税務問題
(2)進出日系企業のビジネス展開におけるリスク、今後より注視すべき問題としてはどのようなものがあるか。
 企業文化の相違による労務管理リスク、商習慣の違いによる販売リスク、取引決済方式のリスク、法令無視によるコンプライアンスリスクなど。
デロイト・トウシュ・トーマツ北京
  (1)駐在員事務所に対する課税強化の状況は?
 今後日本企業が中国に駐在員事務所を開設する場合には、本当に本社との連絡業務のみを行うことが目的か、あるいは実際には日本本社のマーケティングの役割を担うのかをしっかり考えるべき。マーケティングの役割を担っていれば課税対象事務所になる。その場合は現地法人の形としたほうがコンプライアンスの問題が解決できるとともに、契約の締結、従業員の直接雇用、輸出入外貨送金も出来るなどのメリットがある。
(2)これから中国へ進出する企業に対してのアドバイスは?
 事業の撤退には困難を伴うことが多い。合弁会社等では董事会出席董事の全員一致が必要であること、会社清算業務の過程においては税務当局が国税・地方税の未納部分がないかを時間をかけて調査し、それが終了するまでは清算が認められない等、手続きが煩雑であるとともに時間を有する。これ以外に、中国では増資は容易だが、減資は法的には可能でも実務的には非常に困難である。
東京海上日動リスクコンサルティング
   いわゆる「チャイナリスク」について、企業はどのように見ているのか?
 トレンドとしては、中国での事業を縮小することを考えている企業はほとんど無く、既存の投資をさらに拡大しようという方向の企業が多い。
 中国の一般人でも、日本は我々が教科書で習ったものとは異なるということが分かり始めており、徐々に日本に対する意識が変わりつつある。中国政府に対する不満を反日デモでぶつけるのはおかしいという人も出てきている。

(2011.09.30)

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