あすな会計事務所トップ > 会計税務情報 > 滞納処分
会計税務情報
税務
コンサル
SPC 会計 |
滞納処分
「差押え」というと、税金を滞納したり、借入金を返済しない人がされるもので、自分にはあまり関係無いと考えていらっしゃる方もいるかもしれません。しかし、実際には税金をきちんと納付し、借入金を返済している法人や個人でも、「差押え」により被害を受けることはあるのです。今回はそんな知っておいて損は無い、滞納者でない第三者が採れる差押えに関する各種制度をご紹介したいと思います。
T.差押換えの請求
例えば、A社は個人bに100万円を貸していたとします。A社は評価額が100万円のb所有のC土地にH24.4.30に抵当権を設定登記しました。一方、bは平成23年度所得税確定申告分100万円を滞納しており、税務署はC土地を差押えました。A社が抵当権を設定したのが、滞納している所得税確定申告分の法定納期限等(H24.3.15)後のため、A社の債権は国税に劣後することになります。なお、滞納処分費は考慮しないものとします。(以下すべての事例について同じ)
国税徴収法基本通達第50条関係において「差押換えの請求」とは以下のように定義されています。 「差押換」とは、第三者の権利(差押え前に取得したものに限る。)の目的となっている財産を差し押さえた場合において、次に掲げる要件を満たすときに、その第三者からの請求により国税の全額を徴収できる財産を差し押さえ、かつ、その第三者の権利の目的となっている財産の差押えを解除することをいう。 (1) 滞納者が他に換価の容易な財産で、請求者以外の第三者の権利(差押換えの請求以後に生じたものを含む。)の目的となっていないものを有していること。 (2) その財産により滞納者の国税の全額を徴収することができること。 つまり、上記の例で言えば、bがC土地以外に車両Dを所有しており、その車両Dが第三者の権利の目的になっておらず、換価が容易で、かつ滞納している税金の全額を徴収できるのであれば、車両Dの方を差し押さえてほしい、とA社は税務署に要求することができるのです。 〔手続き〕 @手続対象者…A社(差し押さえられた財産について担保権等を有する第三者) A提出時期…差し押さえられた財産の公売公告の日まで ※「公売公告の日」を事前に抵当権者等に通知する制度は現状ではありません。公売公告する場合には、同時に公売通知が抵当権者等に発送されますが、届いた時点では既に公売公告されていることになります。従って、財産が差押えされた段階で、抵当権者等には差押通知書により差押えの事実が通知されますので、差押換えの請求を希望される場合には、差押通知書が届き次第迅速に手続きを進められることをお勧め致します。 B提出方法…差押換請求書を作成の上、差押えを行った国税局又は税務署へ持参または送付 U.差押換えの請求が却下された場合の換価申立手続き
A社はbが所有していた第三者の権利の目的となっていない車両Dを、評価額を110万円と見積もり、税務署に対し、差押換えの請求をしました。しかし、税務署側が車両の評価額が正しくは80万円にしかならず、滞納国税の全額を徴収できないとして、請求が相当と認めませんでした。
国税徴収法第50条2項及び3項において以下のように記載されています。 2税務署長は、前項の請求があつた場合において、その請求を相当と認めるときは、その差押換をしなければならないものとし、その請求を相当と認めないときは、その旨をその第三者に通知しなければならない。 3前項の通知があつた場合において、その通知を受けた第三者が、その通知を受けた日から起算して七日を経過した日までに、第一項の規定により差し押えるべきことを請求した財産の換価をすべきことを申し立てたときは、その財産が換価の著しく困難なものであり、又は他の第三者の権利の目的となつているものであるときを除き、これを差し押え、かつ、換価に付した後でなければ、同項に規定する第三者の権利の目的となつている財産を換価することができない。 つまり、A社が税務署から「相当と認めない旨の通知」を受けた場合、その車両Dが換価が著しく困難で第三者の権利の目的となっていないのであれば、まずは車両Dの方を換価してほしい、と税務署に要求することが出来るのです。その場合、税務署はまず車両Dを換価しなければC土地を換価することは出来ません。車両Dが換価されなければ、C土地の換価代金100万円はすべて平成23年度所得税確定申告分100万円に充てられてしまいますが、車両Dの方を先に換価することで、平成23年度所得税確定申告分100万円は車両Dの換価代金80万円とC土地の換価代金20万円から徴収されることになります。残ったC土地の換価代金80万円でA社は債権の一部を回収することが出来るのです。 〔手続き〕 @手続対象者…A社(差押換拒否通知を受けた権利者) A提出時期…差押換拒否通知を受けた日から起算して7日を経過した日まで B提出方法…換価申立書を作成の上、差押えを行った国税局又は税務署へ持参または送付 V.動産が差し押さえられた場合の選択
A社はE社から機械Fを契約(契約期間H24.7~H25.6)により月20万円で賃借し、契約時に6か月分の賃料120万円を予め支払っていたとします。一方で、E社は国税100万円を滞納しており、E社には当該機械Fの他には財産は一切ありません。税務署は、A社にH24.8.31までに機械Fを引き渡すように書面により命じました。なお、E社はA社の親族その他特殊関係者ではありません。
国税徴収法第58条に以下のような規定があります。 滞納者の動産又は有価証券でその親族その他の特殊関係者以外の第三者が占有しているものは、その第三者が引渡を拒むときは、差し押えることができない。 2 前項の動産又は有価証券がある場合において、同項の第三者がその引渡を拒むときは、滞納者が他に換価が容易であり、かつ、その滞納に係る国税の全額を徴収することができる財産を有しないと認められるときに限り、税務署長は、同項の第三者に対し、期限を指定して、当該動産又は有価証券を徴収職員に引き渡すべきことを書面により命ずることができる。この場合において、その命令をした税務署長は、その旨を滞納者に通知しなければならない。 3 前項の命令に係る動産若しくは有価証券が徴収職員に引き渡されたとき、又は同項の命令を受けた第三者が指定された期限までに徴収職員にその引渡をしないときは、徴収職員は、第一項の規定にかかわらず、その動産又は有価証券を差し押えることができる。 つまり、E社が他に適当な財産を有していれば、A社が拒めば税務署は当該機械Fを差押えすることは出来ません。しかし、今回の事例ではE社は機械の他には財産は一切有していない状況ですので、税務署は期限を指定して機械を引き渡すべきことを命ずることになり、機械Fは税務署により差押えられることになります。 さらに、国税徴収法第59条に以下のように記載されています。 動産の引渡を命ぜられた第三者が、滞納者との契約による賃借権、使用貸借権その他動産の使用又は収益をする権利に基きその命令に係る動産を占有している場合において、その引渡をすることにより占有の目的を達することができなくなるときは、その第三者は、その占有の基礎となつている契約を解除することができる。この場合において、その第三者は、当該契約の解除により滞納者に対して取得する損害賠償請求権については、その動産の売却代金の残余のうちから配当を受けることができる。 2 徴収職員は、前条第二項の規定により動産の引渡を命ぜられた第三者の請求がある場合には、その第三者が前項前段の規定により契約を解除したときを除き、その動産の占有の基礎となつている契約の期間内(その期限がその動産を差し押えた日から三月を経過した日より遅いときは、その日まで)は、その第三者にその使用又は収益をさせなければならない。 3 前条第二項の規定により動産の引渡を命ぜられた第三者が賃貸借契約に基きこれを占有している場合において、第一項前段の規定によりその契約を解除し、かつ、前条第二項の命令があつた時前にその後の期間分の借賃を支払つているときは、その第三者は、税務署長に対し、その動産の売却代金のうちから、その借賃に相当する金額で同条第三項の規定による差押の日後の期間に係るもの(その金額が三月分に相当する金額をこえるときは、当該金額)の配当を請求することができる。この場合において、その請求があつた金額は、第八条(国税優先の原則)の規定にかかわらず、その滞納処分に係る滞納処分費に次ぎ、かつ、その動産上の留置権により担保されていた債権に次ぐものとして、配当することができる。 つまり、E社の滞納により機械Fの引き渡しを命ぜられたA社は、 (イ)契約を解除する (ロ)H24.11.30まで(契約期間終了までの期間と差押えから3ヵ月間のうち短い方の期間)機械Fを使用する のいずれかを選択することが出来ます。 〔手続き〕 (イ)契約を解除する場合@手続対象者…A社(滞納者との契約による使用収益権に基づいて滞納者の動産又は自動車もしくは建設機械を占有する者で、当該動産について引き渡し命令を受けた後に当該契約を解除した者) A提出時期…引渡命令に係る動産の差押えの時まで B提出方法…契約解除通知書を作成の上、引渡命令を発した国税局又は税務署に持参又は送付 (ロ)機械Fを使用する場合 @手続対象者…A社(引渡命令に係る動産を、納税者との契約による賃借権等の使用収益権に基づき占有する者) A提出時期…対象となる動産の差押えの時まで B提出方法…引渡命令を受けた財産の使用収益請求書を、引渡命令を発した国税局又は税務署に持参又は送付 ※(イ)(ロ)いずれの手続きもなかった場合には、(ロ)の手続きがあったものとみなされますので、ご留意ください。 また、A社がE社に請求する(イ)により契約を解除せざるを得なくなった損害に対する賠償金は、当該機械Fを換価し、換価代金から滞納国税等を配当した後、残余があれば配当を受けることが出来ます。 さらに第59条3項に記載されている内容ですが、(イ)を選択した場合は、A社がE社に支払っている前払賃料の差押え後の期間に対応する部分のうち3か月分60万円(前払賃料の差押え後の期間:H24.9〜H25.1月分の5か月分≧3か月 ∴3か月分)は、当該機械Fを換価した際、換価代金から国税に優先して配当を受けることが出来ます。 ※なお、(ロ)を選択した場合は前払分の配当を優先して受けることは出来ませんので、ご留意ください。 機械Fの換価代金が170万円であった場合の配当順位は以下の通りです。 (イ)を選択した場合
(ロ)を選択した場合
※なお、残余の70万円は滞納者に交付されます。 (2012.11.20) |
Copyright Asuna Accounting. All rights reserved. | プライバシーポリシー |