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遺産再分割
相続税の申告にあたり、未分割財産のままでは、各種優遇措置を受けられない場合があるため、出来るだけ分割協議を行っておいた方が良いことは、以前の記事でも紹介させて頂きましたが、今回は、その分割協議が整ったあと、何らかの理由により、相続人間で再分割を行うことが必要となった場合の取扱いについて、参考となる裁判事例と併せて、まとめてみたいと思います。 1、民法上の取り扱い
遺産の分割については、民法第907条に「共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。」と規定されており、また、裁判例によっても、遺産再分割を行うことは当然可能であるとの判決が出ています。
従って、遺産分割が成立した後に、何らかの理由により再分割を行う必要が生じた場合には、再分割という手段によって解決を図ることが可能となりますが、ここで、別途税務上の問題が発生することになります。 2、相続税法上の取り扱い
相続税法上は、その分割の方法は問わないものの、当初分割後、再分割を行ったことにより取得した財産については、相続税法上の「分割」には該当しない旨、基本通達に規定されています。(相続税法基本通達19の2−8)
従って、再分割により相続財産の移転があった場合には、当初分割により提出した相続税申告書の修正申告書の提出若しくは更正の請求をすることはできず、その財産は、当初分割により財産を取得した者から、再分割により財産を取得した者に対する贈与があったものとして、贈与税・所得税を計算することになります。 但し、平成22年3月2日付の国税庁文書回答事例の回答において、再分割は一切認めないということではなく、あくまでその再分割に至った諸事情等を総合勘案して判断する必要がある旨が述べられています。 〜平成22年3月2日 国税庁文書回答事例 回答より抜粋〜
「ただし、共同相続人間の意思に従いその態様に応じた課税を行う以上、当初の遺産分割協議後に生じたやむを得ない事情によって当該遺産分割協議が合意解除された場合などについては、合意解除に至った諸事情から贈与又は交換の有無について総合的に判断する必要があると考えます。 では、具体的にはどういった判断となるのかについて、再分割の有効性が争われた裁判事例として、参考となるであろう事例を2件紹介したいと思います。 @東京地裁平成21年2月27日判決「相続税更正処分取消等請求事件」 これは、課税負担の前提事項の錯誤を理由とする遺産再分割が有効かどうかが争われた事例で、当初遺産分割時に、その株式の評価を配当還元方式により評価できることを前提に株式を分割し、申告を行っていたものの、申告後に、配当還元方式の適用は受けることができず、類似業種比準方式による評価となってしまうことが判明したため、共同相続人全員の合意により再分配協議を行い、それに基づき行った更正の請求・修正申告について、課税庁側より、当該再分割は遺産の分割ではなく贈与等であるため、更正の請求等は認められないとして争われた事例です。 結果的に、この再分割は遺産の分割であると認められており、その裁判所の判断を抜粋しますと、「原則としては、課税負担又はその前提事項の錯誤を理由として当該遺産分割が無効であると主張することはできないが、例外として、下記i〜iiiに掲げるように、更正請求期間内にされた更正の請求において その主張を認めても弊害が生ずるおそれがなく、申告納税制度の趣旨・構造及び租税法上の信義則に反するとはいえないと認めるべき特段の事情がある場合に限り、認められると解するのが相当である」として、課税庁の意見を退けています。(TAINS Z888-1414)
A最高裁平成元年2月9日判決「更正登記手続等請求事件」及び、国税不服審判所平成24年3月8日公表裁決「平成6年4月相続開始に係る相続税の各更正の請求に対してされた更正をすべき理由のない旨の各通知処分」 これは、上記@と違った論点として、共同相続人間で遺産分割協議が成立した後、相続人の一人がその分割協議にあたり負担した債務を履行しなかった場合に、当初の遺産分割協議を解除することができるかどうかが争われた事例で、解除できない場合には、当然当初遺産分割協議が有効となりますので、再分割時には贈与税等が課税されます。 この事例では、当初遺産分割協議において、財産を取得する代わりに、何らかの債務(母親の面倒を見る、又は代償債務を履行する)を負担する条件で合意に至った後、実際にはそれらの債務を履行しなかったことにより、共同相続人間で当初分割協議を解除し、再分割を行ったことにより生じた更正の請求等について、争われました。 ここでの判断のポイントは、遺産分割協議は民法541条「履行遅滞等による解除権」により解除することができるかどうかという点であり、この判断を抜粋しますと、「遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は当該協議において当該債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法第909条《遺産の分割の効力》本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。そうすると、遺産分割協議においては、仮に、一部の共同相続人が、他の共同相続人に対して、遺産分割協議において負担した債務の不履行を理由とする解除の意思表示を行っても、当該意思表示は無効であるから、このような場合は、通則法施行令第6条第1項第2号にいう「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され」た場合に該当しないと解すべきである。」として、解除権の行使による解除は認められず、また、平成24年裁決では、「やむを得ない事情による」ものかどうかといった点についても、争われていましたが、こちらも納税者の主張を退けています。(TAINZ J86-1-01) 3、不動産取得税の取り扱い
地方税法上、「相続による不動産の取得」については、第73条の7において、形式的な所有権の移転等として、不動産取得税を課さないこととしています。
遺産再分割時の不動産の取得が、相続による不動産の取得にあたるかどうかについては、上記と同様の論点が生じますが、「相続による取得」であると認めた裁判例として、最高裁昭和62年1月22日判決「不動産取得税賦課処分取消事件」があります。 これは、当初遺産分割協議では、相続税の計算における配偶者控除の適用を考慮していなかったことにより、結果的に他の相続人の税負担が過大となることが判明したため、この点を考慮した再分割協議を行い、各更正登記を行ったところ、不動産取得税の課税について、課税庁より、この再分割による不動産の取得は、当初資産取得者から再分割による資産取得者に対し贈与による財産の移転があったとして、不動産取得税が課税され、争いに至った事例です。 結論としては、上記、「相続税更正処分取消等請求事件」同様、相続による取得と認められ、不動産取得税の課税処分は取り消されています。 4、遺言書があった場合
また、遺産再分割に類似した論点として、遺産分割に関し、遺言書があった場合に、共同相続人全員の合意により、遺言書と異なる内容の遺産分割を行った場合の取扱いが挙げられますが、この場合については、下記質疑応答事例において、贈与とはみなさない旨、国税庁HPに掲載されています。
〜国税庁 質疑応答事例「遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税」より抜粋〜 「相続人全員の協議で遺言書の内容と異なる遺産の分割をしたということは(仮に放棄の手続きがされていなくても)、受遺者が遺贈を事実上放棄し(この場合、受遺者は相続人としての権利・義務は有しています。)、共同相続人間で遺産分割が行われたとみて差し支えありません。 5、最後に
遺産分割協議について、民法上は、遺言で禁止されていない限り、何度でもできることとされています。
しかし、税務上では、そのような分割を認めてしまうと、納税義務の確定が困難となるとともに、共同相続人間の自由な意思決定による贈与・交換等の意思が混在し、適正な課税が行えなくなるといった懸念から、基本的には再分割を認めず、やむを得ない事情により、当初分割が無効とされる場合等、一定の場合に限り認めることとされ、そうでない場合には贈与税等が課税されることとなります。 現状、贈与税の最高税率は50%となっており、年間110万円を超える財産を贈与により取得した場合には、その約半分もの贈与税が課税されますが、相続により取得した場合には、法定相続人が一人であっても6,000万円(基礎控除5,000万円+1,000万円×一人)までは相続税の負担無く、財産の移転ができる計算となっていることを考えると、出来るだけ、分割協議は一度で完結できるよう、許される限りの時間をかけて、細かい部分まで検討を重ねることが重要だと考えます。 (2013.01.07) |
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